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美しい国へ

2006年11月01日作成 


評者:Katsuyoshi N.

安倍晋三氏の本書への想い

本書は、2006年9月26日、第90代内閣総理大臣に指名された安倍晋三氏の手による書である。本書の狙いを氏はあとがきで次のように言う。「本書は、いわゆる政策提言のための本ではない。私が十代、二十代のころ、どんなことを考えていたか、私の生まれたこの国に対してどんな感情を抱いていたか、そしていま、政治家としてどう行動すべきなのか、を正直につづったものだ。この国を自信と誇りの持てる国にしたいという気持ちを、少しでも若い世代に伝えたかったからである」と。本書には安倍氏の熱い想いが一貫して流れている。

歴史観・国家観と政治家としての信条

「この国に生まれ育ったのだから、私は、この国に自信をもって生きていきたい。そのためには、先輩たちが真剣に生きてきた時代に思いを馳せる必要があるのではないか」「自ら紡いできた歴史や伝統、また文化に誇りを持ちたいと思うのは、だれがなんといおうと、本来、ごく自然な感情なのである」。安倍氏の歴史観・国家観が端的に表れている。
そうしたうえで、政治家として守るべきものについて、「国家の独立、つまり国家の主権であり、私たちが享受している平和である。具体的には、私たちの生命と財産、そして自由と人権だ。もちろん、守るべきもののなかには、私たち日本人が紡いできた歴史や伝統や文化がはいる」と主張する。明快な価値観であり、政治家としての信条である。

教育改革の重要性

安倍氏は、教育改革を政策の柱の一つにすえている。本書でも重要な位置づけにある。日米の高校生へのアンケート結果が紹介され、「国に対して誇りをもっているか」という問いに、アメリカでは約7割がもっていると答えているのに対し、日本では約5割しかいなかったことに衝撃を受けたようだ。また、最近の若者たちが刹那的であるというモラルの低下に強い危機感を抱いている。そして「教育は学校だけで全うできるものではない。何よりも大切なのは、家庭である。だからモラルの回復には時間がかかる」とする。正しい認識である。だからこそ今手を打たなければならない、という安倍氏の危機感は等しく共有すべきだ。

小泉政権から引き継がれる改革の目的は努力した人が報われる社会作りにあり、そのために公平公正な競争が行われるように担保しなければならない。競争の結果生じる格差については、固定化、階級化してはならず、意欲さえあれば何度でもチャレンジする社会を作ることが重要であると強調する。そして本書は、「私たちの国日本は、美しい自然に恵まれた、長い歴史と独自の文化をもつ国だ。そして、まだまだ大いなる可能性を秘めている。この可能性を引きだすことができるのは、私たちの勇気と英知と努力だと思う。日本人であることを卑下するより、誇りに思い、未来を切り拓くために汗を流すべきではないだろうか。<略>」と結ばれる。

小泉政治の継承と若き宰相への期待

小泉政権により、信念を貫き通せば改革も可能であることが示された。政治への信頼が回復し、政治と国民の距離は縮まったように見える。しかし、反面、劇場国家性、つまり、政治を一種のパフォーマンスとして観客席から見るかのように捉える風潮は強まったのではないか。主役は国民であり、国民こそが当事者意識を持ち、主体的に考えなければならないのに。

安部氏は、初の戦後生まれの首相であり、初当選以来、国家のため国民のためとあれば批判を恐れず行動する「闘う政治家」を目指している。

日本が直面しているのは、いずれも日本が国家としてどうあるべきかという本質に関わる課題ばかりである。対応の先送りは、間違いなく後世の負担を大きくし、問題解決を困難にする。つけを後世に回してはならない。安倍氏の政治信条である「闘う」姿勢に期待するところ大である。しかし、本書のタイトルでもある「美しい国」が何を示すのか現時点では抽象的であり、政策への具体化はこれからである。最終的に何を選択し、どのような国づくりを目指していくかは国民一人ひとりが考えなければならない。本書はそのきっかけとして最適である。



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