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翻訳者は3か国語に対峙する(後編)

2007年08月01日作成 

岩沢 節

 この記事の前編では、ソフトウェアの英文マニュアルでは、普通の英語と"コンピュータ語"(プログラム言語)が渾然一体となっている場合が多く、日本語に翻訳する場合に、日本語に訳すべき語と訳してはいけない語を見分けるのがときに困難であることを示した。この後編では、翻訳を難しくしている他の要素や、翻訳者としてどのように対処できるかを述べてみたい。

16 characters は本当に「16文字」なのか?

英文のマニュアル執筆者は、ユーザーがMBCS (Multibyte Character Set) を入力する可能性があることを意識せずに、文字数に関する安易な説明をしがちである。実はこれも、翻訳者が3か国語に対峙していることの悩みの一つである。コンピュータの記憶単位の 1 byte で、英語圏言語の 1 character を表現できるために、マニュアル執筆者が配慮を欠いてしまいがちなのである。しかし、MBCS言語では、「16 characters」を「1バイト英数字で16文字」などと訳さなければならないかもしれない。これは翻訳の途中で、開発元への問い合わせがときどき必要になる分野である。

構文図に示されているパラメータ

プログラミング言語の構文図 (syntax diagram) と、それに続く説明とは、厳密に整合している必要があるが、意外にそれは簡単ではない。翻訳に例1のような直しが必要とされることがある。
  例1は、英文を見ただけでは最初の訳で正しそうであるが、構文図(ここでは省略した)を見ると、最初のパラメータがversionNumberで、2番目のパラメータがdataであることが分かるという例である。例2は正しい訳例だが、コマンド構文の要素なのか普通名詞なのかをしっかり見極めるのは一苦労である。

翻訳者はマニュアルに記載されているサンプル・コードに関心を示そう

マニュアルの翻訳の際、サンプル・コードは翻訳対象ではないため、翻訳者は一目もせずに飛ばしてしまうことがほとんどで、関心を示す時間的余裕もないだろう。しかし、実際にはサンプル・コードがあるために、本文の説明が十分に理解できることがある。そもそも、サンプル・コードはその目的のためにマニュアルに記載されているのである。自分が扱っている言語を全く知らないで翻訳するよりは、多少でも理解していて訳す方がずっと自信を持てるに違いない。時間を取ってプログラム言語を学ぶのが無理としても、自分が今取り組んでいるマニュアルに学習のヒントとなるサンプル・コードが出ているのであれば、多少なりとも理解を深めるチャンスと考えたい。
つまるところ、ソフトウェアのマニュアルとは、人とコンピュータが対話するのを助けるものである。コンピュータは英語も日本語も理解できず、あらかじめ定められたGUI (Graphical User Interface) またはプログラム言語で対話するしかない。「OFF」とすべき箇所で「オフ」と入力されたら、コンピュータはもうお手上げである。この場合の「OFF」はもはや英語ではないのだ。それで、「翻訳者は3か国語に対峙している」ということを常に意識しておくほうが良い。マニュアル原文の執筆者にも、翻訳者のその労苦を意識してほしいものである。

例1)Specifies the version and release level of the structure passed as the second parameter data.
(元の訳) 2番目のパラメータのデータとして渡される構造のバージョンとリリースのレベルを指定します。
(修正訳) 2番目のパラメータであるdataとして渡される構造のバージョンとリリースのレベルを指定します。

例2)Syntax:  qcc_db2  test  db2admin  password
Description:  This command logs you into your database named test as user db2admin with the password of password and loads the data into the qcc table.
構文:  qcc_db2  test  db2admin  password
説明:  このコマンドにより、test というデータベースに、ユーザー db2admin として、パスワード password でログインし、データがqcc表にロードされます。





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