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株式会社インサイト・コンサルティング
ビジネスコンサルティング部長
森川 大作 氏
OJT(On the Job Training)というと、2つのニュアンスがあるように思います。「OJTやってます」という意味と、「研修やってます」という意味です。前者の言外の意味は、「OJTやっているので研修はいりません」という意味で、要するにOJTの名の下に現場任せで大抵はなにもやっていないことが多いし、後者の場合は「研修やっているけどOJTはなかなかうまくいってません」という意味で、要するに研修で学習したことが現場では活かされていないという悩みがほとんどです。いずれの場合も、企業教育がまずいことになっていますし、どちらもうまく回っているという企業にはなかなかお目にかかれません。
そんな企業の教育現場をこれまで見てきて、我々インサイト・コンサルティングが行き着いたのが<OJTコンサルティング>(以下OJTCと略す)です。これまで、戦略策定、業務改革、システム定着、人材育成、プロジェクト推進、新規事業開発・・・さまざまなコンサルティングと教育研修を経た現時点での帰結です。本稿では、OJTCが他のコンサルティングや教育研修と何が異なり、どのように実施されるのか、またなぜそれほど有効なのかを解説し、企業教育の新しい姿をご紹介します。
OJTについて考えるにあたり、ちょっと企業教育の時代的変遷をたどってみようと思います。
映画「ALWAYS 3丁目の夕日」(http://www.always3.jp/05/)なんか見ていると、仕事なんてとにかくがむしゃらに上司や先輩にくっ付いて<まねぶ>もんだという極めて職人的かつ属人的な感覚と、一方で、映画「不撓不屈」(http://futo-fukutsu.cocolog-nifty.com/)なんかを見ていると旧態依然とした日本の社会に欧米的な思想を取り入れようという感覚とが交差するちょうど昭和30-40年代。がむしゃらな時代の中でもマンツーマン型の究極のOJTと欧米の行動科学理論に基づいた定型的な集合研修(以下OFFJTと略す)の形式的な導入が入り混じっていた時代だったのでしょう。とにかく、できるだけ大勢の人が<できる人と同じことができるようになる>ようになる教育が必要だったCOPY時代です。
その後は昭和の時代いっぱいあたりまで、高度成長期における、右肩上がりの拡大基調を大前提とした企業教育が盛んになります。いわば企業丸抱え型の集団社員教育で、「御家の考え」と「御家の経験」を「御家の人間関係」を基盤にしながら、集団として知識や技能を体系的に教えるための社内研修制度や施設、ドキュメントなどが<整備され管理された>MANAGEMENT時代です。
ところがその後のバブル期には様相が変わります。いくら形式を整えても「それって本当に役に立っているの?」という疑念、つまり教育と業績の関わりが重視されるようになり、それまでの教育体制が行き詰まり形骸化するようになりました。そのため、教育をもっと現場に近いところに持ってきて、もっと日常業務の中で教育していくべきではないかという本来のOJTに注意が向けられ、上司も部下も共に学ぶつまり改善するという企業教育の解釈拡大が図られました。結果として、BPRやナレッジマネジメントなどが盛んになった時代だったわけです。<教育の見直しがかかった>KAIZEN時代です。
その後の時代、つまり過去約10年は業績面がさらに全面に押し出されるようになり、目標管理制度(MBO)の導入や自己啓発がどんどん盛んになって行きました。年功序列、終身雇用、右肩上がりが過去のものとなり、就職氷河期、女性の社会進出、派遣社員増加、フリーターやニート問題など大激変の時代だったとも言えます。企業教育の視点は集団から個人へとシフトし、コンピテンシーモデルやコーチング、キャリアパス、マーケットバリューなどが盛んに言われるようになりました。ITとグローバル化という要素も教育に影響を与えた時代でもあります。<個人の労働感そのものが変わってしまった>PERSONAL時代と言えるでしょう。
そして今求められているのは、変化に対応する力です。人材の流動化、しかも労働市場という点ではどんどんフラットになった世界(トーマス・フリードマン著 「フラット化する世界」)で人材が流動するようになり、海外の企業や人々と働く機会が増えていきます。同時に、企業そのものはM&Aが加速し、異なる「御家文化」が非常なスピードで融和し機能することが求められる時代になっています。今日のやり方は明日は通用しないかも、自分とは能力も文化も価値観も全く異なるメンバーと仕事をする、そういう環境では、特定の「御家」のことを知っている人が偉いとか、特定のテクノロジーや経験を何年積んでいるとか、部下が何人いる課長ができます部長ができますという何か特定のことを学ぶことというよりもむしろ、<新たなことを学ぶ方法を学ぶ>こと、つまり一層普遍的な企業教育が重要な役割を果たすMETA時代だと思うのです。
そんな時代に旧態依然とした上司が部下に仕事を教えようとしてもうまくいくはずがありません。そもそも労働感やスピード感が全く異なるのですから。ここでちょっとテストをしてみましょう。正誤を答えてください。①「OJTとは先輩がこれまでやってきたことを部下ができるようになることである」、②「OJTとは上司が部下を教えることである」。いかがですか?どちらも間違いです。これまで述べてきたように、①の点では、OJTとは既存の技術や知識の伝承や習得ではなく成長や変革を促進することです。②の点では、OJTとは上司と部下が共に育ち啓発されることです。だって、今までやってきたことをこれからもずっとやっていけばご飯が食べられる時代じゃないし、そもそも若い世代は先輩世代の背中を見たくないわけですから(ちょっと寂しい言い方ですけど・・・)。
実はこの問題、新卒者がせっかく企業に就職したのに数年で辞めてしまうという昨今の離職問題とも関係があると思うんです。若者の離職問題やニート問題は、仕事に対する意識が高すぎるあるいはフィット感を求めすぎるために、自分で早熟?にもミスマッチというジャッジを下してしまう話を多くのキャリアコンサルタントから聞きます。だからそれを解消するには2つの方法があって、就職前に各職種の理解をもっと浸透させようという取組みと就職後に会社や仕事というものはこういうものだと理解を促進する取り組みです。前者は言わば、<就職>支援であり、後者は<就社>支援とでも言ったらいいでしょうか?そういう取り組みを経産省がジョブカフェなどでやっているわけです。でも、早期に辞めてしまう、しかも優秀な人材が離職するもっと根本原因が他にあります。
それが、簡単に言えば日本の会社の<閉塞感>です。年功序列と終身雇用および経済成長を大前提とした会社の人事制度は、若年層の収入の低さをこれまで生涯賃金という形で報いてきました。もっとダイレクトに言えば、将来のポストで報いるという制度でした。でもそれは、会社が年々大きくなってポストが増えることが大前提の話です。コスト削減、効率的経営、人口減少、そしてたぶん将来は海外人材の流入や外国資本による買収など、ほとんどの企業でポストが減る話ばかり。だいたい30代に入る頃、会社のそういう事実が見えるようになるわけです。以前なら入社5年生がやっていた仕事を10年経ってもやっているなんていう話をよく聞きます。「昭和的価値観を捨てず、未来をリストラして生き延びてきた企業と、それを黙認してきた社会の矛盾」である(城繁幸著 「若者はなぜ3年で辞めるのか?」)と述べています。(これもちょっと言いすぎだと思いますが・・・)。
すべての企業に押しなべて同じことが当てはまるわけではないにしても、ほとんどの大企業で心当たりのあることだからこそ、多くの企業の人事部が、そのことで頭を抱えているわけですし、大量採用時代→就職氷河期→大量採用時代を再びという波を辿っている以上、社内の人員も双こぶ型の歪な構成になっており、OJTを勘違いしたまま実施しても、うまくいかないのです。だからと言って、OFFJTだけで人材育成できるかと言えば、その問題は先に述べた歴史的変遷の中でもう20年来の問題点として顕在化しているのです。
先ずはOFFJTの効果性を高めるという視点で我々が取り組んできたことを説明します。要するに、日常業務から時間と空間を切り剥がして、受講者を1箇所に集め、すでに汎用化・形式知化された内容を説明するセミナーつまり大学講義形式から、如何にに受講生の腹に落とすかという試みが、演習ドリルやグループディスカッション&プレゼンテーションなどの<ワークショップ>という形式です。もともとワークショップとは作業場や工房を意味していましたから、とにかく今聞いたことを「やってみよう」という体験型の意味合いが強いわけです。
基礎的な知識や技術であればこれで身に付くわけですが、なかなか現場で直面する生身の課題は、そうは問屋が卸しません。どれが正解というわけでもなく、「道具は分かったけどどうやって使うの?」という切り口つまり視点が鍵になってくるからです。そこで、できるだけ実際の課題を汎用化して「ことの部分」ではなく「ことの全体」に当たらせて視点を磨かせようという体験&実践型の形式がMBAなどで徹底されている<ケーススタディ>という形式です。
この2つの形式を比較するとすれば、前者が「解答指向型」、後者が「現場指向型」とも言えるでしょう。そうなってくると、もっともっと現場に即した教育をと考えるのが普通です。だったらいっそのこと、ケーススタディなんていわずに生身の現場課題をそのまま研修に持ち込んでアウトプットを業務や業績に直結させようということになります。そこで考え出されたのが<アクションラーニング>という形式の学習方法です。これはもともと社内におけるチェンジリーダーを量的に輩出するための方法論としても有効なもので、各社各様ではありますが、一般的にはCFT(クロスファンクショナルチーム)を作って現場課題を洗い出し、その優先順位をつけて、解決のための戦略プランを作り、実行計画(アクションプラン)まで落として、社内のそれなりの人に評価してもらい、実プロジェクトとして始動するという形式のものが多く見受けられます。ある場合には、経営戦略を所与の条件として、それを拠点や個人ごとのアクションプランにどのように落とすのか、BSC(バランス・スコア・カード)的な社内戦略の徹底浸透を目指して行われます。この場合、経営戦略と教育戦略が直結できる環境を実現できます。アクションラーニングに参画した受講者が自ら当時者性を発揮してチェンジリーダーとなるようマインドセットされると同時に現場課題の解決施策を策定する機会となり、それをPDCAサイクルで繰り返していけば、ゆくゆくは社内における「学習する組織」が生成されるという目標を設定できます。まさしく、OJTの本当の姿、つまり成長や変革を促進することあり、上司と部下が共に育ち啓発されることを実現します。
さて、このアクションラーニングでさえ、2つの問題があります。1つは生身の課題を扱うという点では業務の延長とは言え、現場での日常業務からやはり時間と空間を引き剥がしあくまでOFFJTの形を取るという点、もう1つはプロジェクト性のある(つまり始まりと終わりとリソースと期待結果が定義されているタスク)課題を切り出したものであり日常業務全体というわけにはいかないということです。
企業教育の別の形態としては、<業務コンサルティング>という形式もあります。ある特定の業界や業務の実務エキスパートとしてコンサルタントが直接支援指導するというものです。業務直結でなくても、会議のファシリテーションやコーチングなどを行うための専門のコンサルティングも広義の意味では業務コンサルティングといえるでしょう。既存の事例があり、対象業務や育成対象の課題が明確である場合やプロジェクト性のある課題に対しては、業務コンサルティングは有効に働きます。とはいえ、これとて、日常業務全体の1タスクや1シーンに過ぎませんし、未だ誰も見たことのない海原の話では、他のタスクや組織との関連で、教科書どおりにはなかなかいかない。だから、コンサルタントがエイヤーでやってしまい(ひどいのは絵だけ書いて)、彼らがいなくなると、それと同じことを継続する(絵を実務で実践する)のはやはり難しいわけです。
もちろん、企業教育には様々な目的とニーズがあります。しかし、これまで述べてきた様々な形式の課題を克服し、業態や職種に依らない普遍的な教育手法としてOJTCがあります。
まず上司も部下も関わる人全員がOJTに関する正しい理解を共有します。それは、OJTとは「日常業務すべてを成長機会に変えること」であり、その意味では、①単なる志ではなく実業そのもの、②評価ではなく共育、③継承ではなく創生、④特殊性ではなく普遍性、という概念です。OJTのコンサルティングですから、主なターゲットは管理者ということになり、彼らを敢えてOJTリーダーと呼びます。ですからメンバーの方々はいつもどおり安心して業務を続けていただきます。OJTリーダーも日常業務をいつものスタイルで続けていただきます。我々コンサルタントは、いわば日常業務の黒子として、デスクであれ会議室であれ他部署であれ工場などの現場やある場合は客先・取引先との商談であれ、すべての日常業務に可能な限り臨席します。
そういうことを聞くと、構えてしまって「授業参観の生徒」のように借りてきた猫になってしまうと何の意味もないので、最初にOJTCの視点は、「強点強化であって弱点補強ではない。弱点は強点を伸ばすことで相対的に小さくする」という思想を徹底することを伝えておきます。一挙一動に何か指摘を受けるんじゃないか、いいとこ見せなきゃ、という心理障壁は、この視点によるフィードバックによって取り払われます。
フィードバックというのは、OJTリーダーのリフレクション(鏡面反射)のことです。日常業務をまずは自分自身がどのようにこなし、その中でメンバーに仕事を説明し依頼し確認し評価し改善しているのか、その過程でどのように人を育成しているのか、などを日常業務の合間にコンサルタントと話します。OJTリーダーは、生身の課題でリアルタイムに自分の姿をいわば鏡に映してもらえるわけです。誰だって、鏡に映れば、良いところと悪いところは分かるものです。ですから、コンサルタントは鏡に映し出すことに注力します。するとOJTリーダーは、自分自身の日常業務すべてにおいて評価できる点と改善できる点を自ら考えることができるようになります。時にはコンサルタントがその姿を気付かせるための視点を投げかけることがありますが、教育における最も効果的なポイントは、「当事者性の発揮」つまりやるべきことを自分をして自分で言わせしめること、それが<与えられたもの>ではなく<自分のもの>になることです。そうすればモチベーションもどんどん湧いてきます。
OJTCは、相手に答えが内在している場合に気付きを誘発するべきときと、相手に原則を明確に提示して正しい答え(つまり適用)を示唆するときとを使い分け、コーチング手法とティーチング手法を織り交ぜていきます。社内公募や対象部門の選定方法やその基準は企業によりますが、リーダーとその上位職者に対する面談と、メンバーを含む事前アンケートの実施により、OJTに対する意識調査を行います。OJTCの設定目標を共有し、その達成に向けて毎回のフィードバック時には、次回の課題が提示されます。その課題に基づいて職場観察が行われます。職場観察は、静態観察と動態観察の両方を実施し、就業時間前後も含むできるだけ素の職場姿を観察します。初日はちょっと違和感がある場合がありますが、リーダーには事前面談を実施していること、メンバーには「リーダーが尻をたたかれる」と思ってもらえること、でも実はメンバー各人が日常業務すべてを通して成長することを励まされること、コンサルタントも悪い人じゃない(当たり前なんですけど・・・)ということが分かり始めると、だんだん慣れてきます。我々から言うと本当の姿が見えてきて、リーダーがトライしてどこまで浸透させているかが分かるのです。全体期間は2~3ヶ月で1~2週間のインターバルを置いて実施すれば全体で5~6回程度のコンサルティング・パッケージになります。一度に2~3部署(つまり2~3人のリーダー)をWコンサルタント体制で見ますから、教育費用としても低コスト化が実現できます。これを徐々に社内企画として浸透させ自立的改善サイクルができれば、見事な「学習する組織」を生成できます。我々のコンサルティングの究極の目標でもあります。
以上のコンセプトに基づいてOJTCでは、企業教育における普遍的な3つの産業人スキルに焦点を合わせます。①コミュニケーションスタイル、②リーダーシップスタイル、③ロジカルシンキングです。これらの分野はOFFJTで個別にトレーニングを積んできたことでしょう。でも、会社に帰ってみると生身の業務で相手が人なわけですから、OFFJTでのゴルフの打ちっぱなし練習からいきなり悪天候でのコースプレーみたいなことが求められる、つまりこれらの3つのスキルを複合的に駆使した総合力と現場対応力が求められるわけです。ですから、OJTCでは、これらのスキルの先進的要素を取り入れつつ、ティーチングとコーチングをその場でやっていきます。組織や人に関する制約条件を踏まえながらも、自ら生産性を向上させ変革を推進できるリーダー像を考える機会となります。彼らを通して日常業務すべてにOJTとしての働きかけが行われます(これをALLJT化と呼んでいます)から、結果としてメンバーにも影響が及ぶことになります。とりわけ、ハイパフォーマーをメンバーとするリーダーが、OJTを正しく理解し実施することで、自社を自己の成長のプラットフォームとして位置づける意識変革が起こり、同時に自部門や自社の<閉塞感>を打破し、すでに見えているパイの奪い合いではなく、未だ見ぬ青い海(W・チャン・キム著 「ブルーオーシャン戦略」)に向けて若手の潜在力をどんどん活かしていく土壌を形成できることになります。自分の立場や地位や面子が・・・なんて古いリーダーの価値観は吹っ飛ばします。だって、自分よりできる人を育てられるあなたは敬意を勝ち得て評価されることになるのですから。GEのジャック・ウェルチ氏は、高度技術時代には部下が上司を教える時代になるという類のことを言っています。知っている人が偉いのではなく、<新たなことを学ぶ方法を学ぶ>能力を研ぎ澄ます教育や風土を作ってゆきましょう。
このOJTが本当に機能するようになれば、OJTだと言って気構える必要もなく、日常業務すべてがOJT化するわけですから、どんな仕事にも自己の成長機会を見出す視点を持てるようになります。これは人生の時間の大半を過ごす会社での産業人生活をハッピーにする生き方です。仕事でたまった憂さをプライベートで晴らすという単純な二律背反の生き方を少しでも解消すれば、もっともっと幸福な働きがいを見出せるはずです。
最近、企業の力の源泉が人にあり、人の教育こそ、経営者の持つべき重要な視点という意味で、米国を中心に人材育成最高責任者:CLOという役職を導入している企業があります(日本でも新生銀行などが導入)。教育によって企業ブランドを確立する企業も見られるようになってきました。21世紀の日本における企業教育の新しい姿としてのOJTCに是非真剣に取り組み、みなさまの企業価値の向上に貢献して参りたいと思います。
◆ お問い合わせ
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