XMLの可能性
電子商取引のための注目規格 ebXML
(株)日本ユニテック
吉田 稔
電子商取引のためのXML応用規格は数多くありますが、その中で今後、広く使われる見込みのある規格がebXML(electronic
business XML)です。
ebXMLの目的と特徴
ebXMLは、UN/CEFACT(United Nation's body for Trade Facilitation
and Electronic Business:国連の一機関でEDI標準のUN/EDIFACTを開発した)とOASIS(Organization
for the Advancement of Structured Information Standards:構造化データの標準化団体)をスポンサーにするebXMLイニシアティブ(http://www.ebxml.org/)によって2001年5月に策定された規格です。ebXMLイニシアティブは、ebXML規格のミッションを以下のように要約しています(ebXMLイニシアティブのサイトより引用)。
To provide an open XML-based infrastructure enabling the global
use of electronic business information in an interoperable,
secure and consistent manner by all parties.
(オープンでXMLベースのインフラストラクチャを提供して、あらゆる当事者が、相互運用性がありセキュアで一貫した仕方で電子ビジネス情報をグローバルに利用できるようにすること)
XMLベースのオープンなインフラストラクチャを提供し、互換性のある安全なグローバル環境下で、すべての市場参加者がe-ビジネスの情報を利用できるようにすること
ここで分かるとおり、ebXMLは、規模の大小を問わずあらゆる企業・団体がグローバルな電子商取引を行うためのXMLベースのインフラを備えるために定められました。
これまでの電子商取引の主流はEDIでしたが、EDIはコストがかかり過ぎるため、その利用は大企業どまりでした。そこで、ebXMLは、既存のEDI技術にXML技術を生かすことによって、低コストで中小企業も参入できる電子商取引市場を興そうとしているのです。また、既存の電子商取引関連のXML規格は、特定の業種に特化したものが多いのですが、ebXMLは、あらゆる業種をターゲットにしようとしています。さらに、取引先企業を検索するレジストリやビジネスプロセスの記述やビジネスデータのコンポーネント化など、ebXMLは、他の規格と比較してより広い範囲を統一的に規格化しようとする試みです。
ebXMLのビジネスモデル
ebXML規格のビジネスモデルを図1に示します。この図では、ある企業Aが必要とするビジネスサービスや製品を提供する企業をどのように発見するか、また自社のシステムと発見した取引先(図では企業B)のシステムをどのように調整して、システム間で取引データの交換を行えるようにするかが描かれています。
図1 ebXMLのビジネスモデル(出典:Digital Xpress Vol.5 P5)
図の矢印の意味は以下のとおりです。
① ebXMLを導入する企業は、自社のビジネスサービス内容(CPPと呼びます。後述。)をebXMLレジストリに登録します。
② ebXMLレジストリサービスを利用して、登録されている企業の中から必要とするサービスや製品を提供する企業を検索します。
③ 選択した企業Bのサービス情報を参照します。
④ 企業Bも、自社を選択した企業Aのサービス情報を参照します。
⑤ 両者のサービス情報を照合して合意に達した内容(CPAと呼びます。後述。)を取り交わします。
⑥ 合意内容に基づいたビジネスプロセスに従って取引を行います。
ebXML規格とは、ここで述べたビジネスモデルを実現するために必要な技術仕様を定めたものです。
ebXML規格内容
図1で示したビジネスモデルを実現するために、ebXML規格が定めている技術仕様の概要を以下に説明します。
●ebXMLレジストリ仕様
ebXML規格は、各企業が提供するビジネスサービスや製品に関する情報を登録・公開するためのデータベース(ebXMLレジストリ)の仕様を定めています。ebXMLレジストリには、登録された企業や企業が提供するサービス全般の情報を登録します。
●サービス情報(CPPとCPA)の仕様
ebXML規格は、ebXMLレジストリに登録されている企業のビジネスサービス情報を格納するXML文書(Collaboration
Protocol Profile:CPPと呼びます)の仕様を定めています。CPPには、企業に関する情報やメッセージ仕様やセキュリティやビジネスプロセスなどを記述します。取引先を選択した企業(図1の企業A)は、ebXMLレジストリから、取引先の候補にした企業(図1の企業B)のCPPを参照し、その企業のビジネスサービスを利用するためのシステム仕様を取得します。
CPPの仕様に加えて、ebXML規格は取引を実現するために企業同士が合意すべきシステム仕様を格納するXML文書(Collaboration
Protocol Agreement:CPAと呼びます)の仕様を定めています。取引先を選択した企業は、相手先企業のCPPと自社システムの仕様を照合し、取引メッセージ交換のためには両者のシステムにどんな変更が必要かを分析します。両者のシステムを連携させる上で合意すべきシステム仕様を記述したCPAを作成して、相手先に送ります。相手先の承認が得られれば、企業同士の取引が合意されたことになります。
●ビジネスプロセス仕様の記述
電子商取引のためのメッセージ交換は、特定の手順(たとえば、見積り→発注→納品→請求など)に沿って行われます。ebXML規格では、この手順のことをビジネスプロセス(business
process)と呼び、ビジネスプロセスをXMLで記述する仕様を定めています。取引を行う企業は、ビジネスプロセス文書の記述内容によってビジネスプロセスを実装します。
●メッセージング仕様
ebXML規格に準拠したビジネスデータは、ebXMLメッセージと呼ぶ形式で交換されます。ebXMLメッセージは、SOAPメッセージを拡張した形式です。
●その他
ebXML規格は、ビジネスデータのボキャブラリを標準化するわけではありません。したがって、ビジネスデータ本体の記述はRosettanetなど既存のボキャブラリを使用して行うことになります。ただし、ebXMLでは、「日付」や「価格」など、どの業界のビジネスデータでも共通して使用される情報は、コアコンポーネント(core
component)として部品化しています。さらに、特定の業界に共通して使用される情報はドメインコンポーネント(domain
component)として部品化する予定です。これらのコンポーネントを組み合わせて使用すれば、汎用性の高いボキャブラリを作成できます。
ebXMLのこれから
ebXML規格を実装した製品(http://www.ebxml.org/implementations/index.htm)やebXML対応を表明したXML応用規格が増えています。ebXMLは、電子商取引のためのグローバルな規格になるものとして、今後さらに注目されることでしょう。
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