実践XSLT 「DOMの使い方」
第4回:XSLT+DOMの将来
(株)日本ユニテック
青木 秀起
1.イントロダクション
早いもので連載を始めてから約半年が経ち、その間にXSL1.0が勧告になりました(2001年10月15日)。XSLTによって変換されたFOをフォーマットするというXSL機能の実装が今後進んでゆくことでしょう。また、文書構造の違いを吸収する技術としてXSLTの利用範囲も広がってゆくことでしょう。最終回の今回は、総括として、XSLTやDOMの応用分野を考察してみましょう。
2.今後の利用分野
① データベース、ナレッジ・マネジメント、そしてEAI |
XMLはデータの意味と階層構造を持つため、柔軟性と拡張性に富み、データの加工や改変に向いています。XSLTやDOMも、データベース・システムの一部として活用されています。たとえば、データベースからXMLデータを取り出し、HTMLやXHTMLに変換するためにXSLTやDOMを使用することができます。
図1.データベース・システムにおける利用例
このようにXSLTを使用すれば、Webアプリケーション側(CGI、ASP、JSPなど)ではほとんど処理を記述する必要はなくなります。デバッグする時にはSQLとXSLTの書き換えが主な作業になります。SQLをDBMSにストアド・プロシージャとして格納しておけば、Webアプリケーションをコンパイルし直したり、Webサーバを立ち上げ直したりすることもほとんど必要なくなり、後の修正も簡単にできます。
さらに、これらデータベース上の情報、PC上の情報、ノウハウやコツ等の目に見えない情報等の企業内のナレッジを組織全体で共有・有効利用しようというナレッジ・マネジメント分野でも採用されつつあります。XMLに変換されてナレッジベースに格納されたデータからダイナミックにXML文書を生成したり、それらを表示したりするときにも、XSLTやDOMが活用されることでしょう。
また、CSV形式やタブ区切り形式ではなく、中立的でかつ情報を意味をも表現することのできるXML形式で共有するなら、従来のアプリケーション間の連携も減り、アプリケーションの統合が容易になります。EAI
(Enterprise Application Management) においても、変換機能としてXSLTが活用されることでしょう。
"Webサービス"は今やXML関連技術の花形で、さまざまな商品やサービスが登場しています。人手を介することなくWebサービスが他のWebサービスと自動的にやり取りして得た統合情報がユーザに提供されます。この「動的なデータの受け渡し」の部分にXSLTやDOMが活用されます。
本稿第1回でご説明したように、XSLT+DOMの動的変換の仕組みを活用して、PC、携帯電話、PDA、デジタルTV等のさまざまなデバイスに情報を配信することができます。クライアントのリクエストに応じまたはクライアントのデバイスを自動認識し、クライアントのデバイスに適したデータ形式で必要な情報だけを抽出して(パーソナライズ化して)マルチデバイスへ情報配信することができます。営業マンが社外から携帯やPDAで社内の情報にアクセスして情報を抽出することも可能になるでしょう。
図2.XSLT+DOMによるマルチデバイス表示
3.まとめ
実践XSLT 「DOMの使い方」最終回では、XSLT+DOMの可能性について書いてみました。今後XSLTの用途はさらに広がってゆくことでしょう。ただし、XSLTやDOMだけがすべてではありません。XMLの応用範囲は極めて広く、その応用技術も膨大です。XSLTやDOMの特徴をよく捉え、適所で活用してゆくことができるでしょう。
FO
フォーマッティング・オブジェクト (Formatting
Object) の略。XSLT変換によって変換され、スタイル情報を指定する対象となるブロック(段落)、文字などのこと。
データベース
データの格納方式によって分類した場合、XML対応データベースには、以下の4タイプがある。
● リレーショナル・データベース方式- XMLデータを行と列のフラットな表形式に変換して格納する方式。
①各要素をマッピングするタイプ
分解した各要素を表の各フィールドにマッピングして格納する方式。
例)SQL
Server 2000 (Microsoft)、HiRDB Adapter for XML (日立)
②1フィールドに格納するタイプ
XML文書全体を表の1フィールドに格納する方式。
例)Oracle
9i (日本オラクル)、DB2 UDB V7.2 (日本IBM)
● オブジェクト指向方式-ツリー構造のイメージでデータを格納する方式。
③そのままの構造で格納するタイプ
XMLデータを変換せずにそのままの構造で格納する方式。
例)Tamino
(ビーコンIT)、Asteria (インフォテリア)
④DOMツリーに変換して格納するタイプ
DOMツリーに変換して格納する方式。
例)eXcelon
(日本エクセロン)
DBMSの世界にはリレーショナル・データベースを中心とした確立した技術があり、またXML化によりパフォーマンスの問題が生じることもある。そのため、必ずしもすべてをXML化するのではなく、既存のデータベース・システムとXMLをうまく組み合わせて効率的なシステムを構築することができる。
ナレッジ・マネジメント
ナレッジ(知)とは、組織内のさまざまな情報のこと。顧客情報や製品情報等の目に見える「形式知」と、コツやノウハウ等の目に見えない「暗黙知」とに分類される。組織内に埋没している情報を含め、すべてのナレッジを組織全体で共有管理・有効利用しようとするのがナレッジ・マネジメント
(Knowledge Management) である。
EAI (Enterprise Application
Management)
企業内のさまざまなアプリケーションやシステムを有機的に連携させ、効率的な企業経営を実現しようとするもの。販売管理システム・営業管理システム・製品開発システムなどのシステムや、PC・UNIX等のシステム環境、ワープロ・表計算・DB等のアプリケーションを統合する。企業買収・合併の手段としても利用される。
Webサービス
"Webサービス"とは、Web上で利用できるサービス・コンポーネントのことで、人手を介することなくWebサービスが他のWebサービスと自動的にやり取りすることができる。Microsoft社のPassportサービスや、UDDIビジネス・レジストリ等がある。データ交換形式にはSOAP
(Simple Object Access Protocol)を使用する。
たとえば、次のようなことが可能になる。九州への旅行を計画したい。ある旅行プランナーWebサービスに登録すると、往復の飛行機チケットの手配、ホテル情報と予約、旅行先のレンタカーの予約やコンサート・チケットの確保等を、各サービスに問い合わせて自動的に行なってくれる。従来旅行者がそれぞれのサービス提供会社に問い合わせる必要があったが、これらを自動的に行なってくれる。
図3.Webサービスのイメージ図
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