不都合な真実
2007年08月01日作成
評者:Katsuyoshi.N
本書は、第79回アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞し、日本でも大きな話題となった映画「不都合な真実」の原典であり、クリントン大統領時代に米国の副大統領を務めたアル・ゴア氏による書である。
地球環境問題取り組みへのきっかけ~愛と将来への責任
ゴア氏は17年前、一番下の息子があわや命を落とすかという交通事故にあう。それをきっかけに、「自分にとって一番大事なものが家族であり、また、地球環境問題こそが、自分の活動と知恵や創意の大部分を向けるべきものだ」と自覚する。そして最初の本「地球の掟―文明と環境のバランスを求めて」の執筆が始まり、スライドを使った精力的な講演・啓蒙活動、地球の実態を探る旅がスタートする。本書の底流には、家族への愛と将来世代に対する責任感が貫かれている。
地球の真実
本書は、宇宙から見た地球から始まり、多くの写真とグラフで構成される。
熱波にあえぐ象。地球の体温を示すグラフ。温暖化により猛威を増すハリケーン、異常気象の爪あと。氷が加速度的に溶けている北極。白化するサンゴ礁。海水面の上昇。・・・写真に付されたコメントは短く、端的である。そのことがかえって真実の持つ重みを感じさせる。地球の叫びが聞こえてくるようだ。
写真やグラフの合間で、ゴア氏の人生観や価値観、地球環境問題に対する活動の足跡が紹介され、メッセージは説得力を増していく。
絶望するしかないのか
ゴア氏は、人間の文明と地球の生態系の関係が根本的に変わってしまったのは、3つの複合要因によるとする。第1は人口爆発である。1776年に10億人に達した人口は2050年には90億人を突破すると予測されている。これに伴い、食料や水などあらゆる天然資源に対する需要が急増している。第2は科学技術革命である。人間の理性は高まっていないが、地球から搾取する技術的パワーは飛躍的に増大している。第3は危機に対する考え方そのものである。温暖化に関して科学者の意見は一致しているのに、なぜか多くの人々がその事実を明確に認めようとしない。ゴア氏はこう想像する。「気候の危機に関する真実は、自分たちの暮らし方を変えなくてはならない「不都合な真実」だからではないか。特に一部の人々や企業にとって不都合であり、歓迎せざるものなのである。なぜなら、自分たちに巨額のお金を儲けさせてくれている活動を、大きく変えなくてはならないからである」と。そして政治がこうした勢力から支持を受けているという構図が現実だとするなら、政治にも多くは期待できない。この間、危機は地球にとって電光石火のスピードで進んでいる。私たちは絶望するしかないのか。
希望の光
「そう、温暖化は起こっている。しかし、実際に自分たちにできることなど何もない。だから何をやってみようだなんて無駄さ」という考え方こそ最も恥ずべき、危険な考えであるとゴア氏は言う。流れは変わりつつある。人類の倫理は作動している。世界の主要国で地球温暖化汚染物質の排出を減らす政策が実行されているし、企業レベルでも温暖化ガスの排出量削減への動きが加速している。私たちの身近でもいわゆるエコ商品が多くみられるようになってきた。いったん勢いがつくと、市場メカニズムや競争原理によって動きは加速していく。
本書の巻末には、暮らしに取り入れることのできる具体的行動が紹介されている。一人ひとりの取組みの効果は微々たるものかもしれない。しかし、温暖化問題は日常生活とつながっている。だからこそ私たち一人ひとりが解決の一端を担うことができるのだ。「責任は私たちが負っている。未来は私たちのものなのだ。私たちの行動によってしか危機は解決できない」ゴア氏のメッセージである。本書は読者の倫理観に訴えかけ、勇気を与え、そして具体的行動に駆り立てる。人類への警告の書であると同時に、希望の書でもある。