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革新的なXMLドキュメント作成・編集テクノロジー  『xfy technology』の魅力とは!?

2005年02月01日作成 

昨年11月に発表されて以来、大きな話題となっているxfy technology。一体どのような技術なのでしょうか。xfyの魅力や持っている可能性、また開発に取り組まれた経緯や今後の展望などについて、株式会社ジャストシステムの大野氏、澤崎氏にお聞きしました。

御社はいつ頃からXMLに取り組まれましたか。

<澤崎氏> 弊社は一太郎やATOKといった、日本語環境のワープロや日本語の変換システムをずっと手がけており、今年で25年になります(図1)。ワープロ専用機の頃から、パソコン上でワープロソフトを確立させることを目的として一太郎を作ってきましたが、その過程でワープロという概念がだいぶ変わっていきました。

最初は、きれいな文字を手早く作ってきれいに印刷する文書清書ソフトというイメージで作っていましたが、文書を作成する際に用いられる作り手のノウハウなどを生かせないのはもったいないということで、作者の意図や行間を表現するということを考えるようになりました。筋道を組み立てながら文章を組み立てるアウトラインプロセッサー等を始めとして何か良い手段はないかと検討しており、XMLが登場した当初から取り組み始めました。

これまで、どのようにXMLに取り組んでこられましたか。

<澤崎氏> XMLテンプレートクリエイターやJustArksといった製品を出しています。XMLテンプレートクリエイターは、一太郎と組み合わせてXMLを利用した申請書類やアンケート用紙などのテンプレートを簡単に作成することができます。元はSGMLでしたが、SGMLは非常に幅が広くていろいろなことができるとはいえ、設定が難しすぎて世の中で広まるところまでは行かず限界がありました。しかしその後にXMLが登場し「XMLはなかなか良い。これを使って何か製品ができないだろうか?」という声があがり1999年12月に、まず一太郎Arkという製品を出しました。

<大野氏> 100% Javaで一太郎を作ったんですよ。

<澤崎氏> これは、書き出しのフォーマットがXHTML形式になっています。当時はXMLというよりもJavaが盛り上がっていた時期でした。Javaを使ってどれだけのものを作れるのかという可能性を探るために、一番ジャストシステム社が得意で、一番皆さまがよく使っていて、ここまでは作れないだろうと思われている一番難しそうなワープロソフトを作りました。プログラムサイズはフロッピー1枚に入る程度でしたが、文章を書いてきちんと印刷するくらいの機能がありました。ただ、当時のパソコンだと非力で、Javaの動作が遅いのが欠点でした。

<大野氏> 今のパソコンとはスピードが一桁くらい違うでしょうね。今なら十分に動きます。

<澤崎氏> オープンソースのソフトウエアであることや、Javaで作ってXHTMLに対応しているなど、当時としては相当先を進んでいました。その後、表計算ソフトやプレゼンテーションソフトを合わせたJustArksという製品を出しました。これもやはりJavaで表計算やプレゼンテーションができないだろうか?というところから始まりましたが、一太郎Arkと違いコンポーネントでどれだけ実用的なものを作れるかということに挑戦したものです。

一太郎Arkはワープロなので字を書いて印刷までできれば十分でしたが、表計算ソフトというと計算ができてグラフが書けなければなりません。そこにSVG1 (Scalable Vector Graphics)を対応させることでグラフの作成が可能になりましたし、起承転結を付けながら文章を書く構造化や描画の機能を組み込んだことで、プレゼンテーションソフトができたわけです。

普通の一太郎はアプリケーション機能中心のソフトウエアでしたが、開発を続けるにつれ“何を作りたいのか”ということを先に考えて、そのためにはどういう機能を付けたら十分なものになるかという、ドキュメント中心の考え方に移っていきました。確かにあれもこれもと機能を拡大していくと相当高性能なものになりますが、それを全部使われるという方は割と少ないと思います。一太郎Arkを開発し始めた頃は、世の中がFDからCD-ROMに移行する時期でしたが、全ての機能を入れようとするとFDが何十枚にもなってしまうとか、ハードディスクもまだそれほど大きくないので半分ぐらい使ってしまうなどということがあって愕然としたものです。コアな部分は当然ありますが、やはり本当に必要なものだけを必要な方に機能として追加する。あるいは、その文書を作るときだけ持ってくるというコンポーネント化の思想になりました。そのためにはXMLが非常に有効でした。

昨年11月に開催された「XML Conference 2004」で「xfy technology」を発表されましたが、これはどのような技術ですか。

<大野氏> 先ほどの一太郎Arkの次バージョンという位置付けで、最初Ark2という開発コードネームで呼ばれていました。xfy(エクスファイ)という名前の由来ですが、modifyのように動詞にして「x化する」というような意味や、もともと複合ドキュメントという発想から開発していますから、ドキュメントという容器の中にXMLによるコンテンツがいろいろ入っているというイメージから「x=fy」と読んでXMLをある種の関数的に使うといった意味が込められています。

xfyを簡単に説明すると、XMLのDOMツリーのデータモデルがレイアウトされた形で見えるビューと、それを操作するユーザ・インターフェイスが一体化されたものです。例えばドキュメントの中に文字と図形が入っている場合だと、文字はHTMLで入力し図形はSVGで作成して最後にそれを組み合わせて1つのドキュメントにする、あるいはHTMLとSVGの両方を組み合わせるエディタを作って、作成するというのが従来の方法でした(図2)。

それに対しもっと汎用的な枠組みということで、HTMLもSVGも1つのDOMツリーの中に置いてしまう。例えば、HTMLのDOMツリーの中に要素としてSVGのXMLツリーが入るといった形でフレキシブルに組み合わせることができるようになっています(図3)。

さらに画面上ではHTMLとSVGが統合されていますが、独立したエディタになっていますから操作上は異なるものとしてプラグイン的に組み合わせ編集することができます。

これだけではイメージしづらいと思いますので例をあげますが、昔Xerox社(米)のパロアルト研究所がSmalltalkといった言語を用いてWYSIWYG(ウィジウィグ)というコンセプトを出しました。“What You See Is What You Get.”といって画面上に出ているものを印刷できるというコンセプトでしたが、この場合は文字列もデータもプログラム言語でコントロールされていました。それを完全にXMLという極めてニュートラルなデータだけでWYSIWYGできるとご理解いただければ一番分かりやすいと思います。

xfyで使われている「Vocabulary Connectionテクノロジー」とはどのようなものですか。

<大野氏> XSLTで変換する場合は、ソースとディスティネーションという考え方になります。これは一方向にしか変換することができませんが、xfyの場合は双方向に変換することができます。また、操作の編集には既存のエンジンなどを使うこともできますから非常に融通性があります。このように様々なXMLの要素を統合して記述できるようにしたことをVocabulary Connection(ボキャブラリー コネクション)と呼んでいます(図4)。このVocabulary Connection自体もXSLTのように独立した仕様にできますので、できれば公開して皆で自由に作れるようにしたいと考えています。

xfyはあらゆるXML文書を扱えるということなんですね。

<大野氏> そうですね。昔はHTMLとSVGしか扱えないところにMathMLや CML2 (Chemical Markup Language)を入れたいといっても無理でした。しかしxfyを使用すれば、MathMLやCML のためのVCD(Vocabulary Connection Descriptor)を書くだけで、またアプリケーションがある場合などはJavaとの間のタグを追加することにより、簡単に実現できます。このような枠組みをコンパウンドドキュメントといいます。W3Cが去年の10月にコンパウンドドキュメント・フォーマット・ワーキンググループ を設立しましたので、今年の1月からジャストシステム社もW3Cに加盟して現在そのワーキンググループのメンバーになっています。

先ほどお伺いしたところによるとxfyはJustArksプロジェクトの途上で生まれたようですが、開発に取り組まれた理由を教えていただけますか。

<大野氏> JustArksを開発していた時に技術者の間で議論し、それを技術的に実現できるかどうかを様々な角度から検討し、最適化してまとめたものが現状のxfyになります。

<澤崎氏> xfyやJustArksは、大学の先生や研究者の方々と長い期間議論する機会がありました。大学の先生が「こんなことができたらいいね」と絵で描いたものに対し「それはできます」という話をしながら少しずつプロトタイプを作ったり、「こんなものを作りましたがどうですか」と持っていって見てもらうというやり取りを数年かけて作りました。

xfyはまだまだ拡張していける部分がありますから、今後のユーザからの要求に対応できる仕様になっています。Javaで作ったコア部分と、CalcやSVGの標準に対応するプラグインがあり、それをソケットのようにつなぐソフトウエアで構成されています(図5)。

大抵、コアとソケット部分は固められていて自由に開発できるのはプラグインだけということが多いですが、xfyはプラグインだけでなくソケットの部分も自由度を高くしていますので、この部分を拡張すればいろいろなことができるようになります。それほど大きなプログラムではありませんから、小さな会社や大学の研究所にいる学生さんなどが作ってもいいと思います。発想した様々なアイデアを上の方で連携できるようになっていますから、将来的に非常に楽しみな仕様です。

コア以外は全てオープンにされているんですね。

<大野氏> 自分たちのものだといって抱え込んでしまうと普及を妨げてしまいます。まずはこれを普及させなければという思いがありますし、公開しておくことで様々な形に応用されていって今度はそれが新しい技術に発展していく呼び水になると思います。そういったコミュニティーを育てることでお役に立てればいいですね。また、始めから世界を相手にしようと考えていましたのでxfyを最初に発表する場としてワシントンDCのXMLカンファレンスを選びました。

反響は非常に大きかったのではないですか。

<大野氏> そうですね。XMLの世界で有名な方にも聞きに来ていただきましたが、皆さんこれが出ると世の中が変わるとおっしゃっていました。カンファレンスで、エンドユーザ・コンピューティングやクライアント側のカスタマイズに関連するスクリプト言語などが話題になりましたが、VCDもそれに近い考え方をしています。<澤崎氏> xfyはサーバシステムとしても開発していますが、弊社はずっと一太郎というクライアント側のシステムをやってきた会社ですからユーザが動かせるものを作っていこうと思っています。いろいろな人に作って欲しいという中にはユーザも含まれます。プログラミングしているという感覚ではなく、ユーザがこれとこれをと選べば自分用にカスタマイズできる。そのような形で提供できればと考えています。

具体的にはどのような使い方を想定されていますか。

<澤崎氏> 例えばビジネス向けの製品が考えられます。地域セールスを担当している人は大抵、販売に行く前に相手先の会社について所在地や今までの売り上げなどを調査します。その際に、集めた情報をグラフや地図のデータも含めてXMLで調査票を作成し、上司にも同じデータを報告書として提出する。XMLデータであれば情報は要素として全て入っていますし、データがバラバラになることもありませんから上司は自分なりの切り口で報告書を見ることができるようになります。地図が必要なければ外すことができますし、過去の報告書を合わせて見たい場合は2年分でも2ヶ月分でも引き出して見ることができます。

部下が10人いると、今まではメールなどで報告書が10通届いて、それぞれを開いて必要なデータを切り貼りして社長に提出する報告書を作るという面倒な方法しかなかったかもしれませんが、訪問記録データだけを10人分表示させてグラフにするといったことをボタン1つでできるようになる。そのような使い方を考えています(図6)。

<大野氏> 企業の場合、サーバソリューションと連携してくというケースが多くなっています。コンテンツマネジメントなどと言われていますが、データベース上にあるコンテンツをドキュメントに持ってきて報告書を作るといったことをプログラムで行なっているところもあります。xfyだとそれがVCDでできますから、非常に効率的になります。

<澤崎氏> 他にも、企業が四季報に掲載するような業績データは、今まで一方向でしか見ることができず決まったものしか出せなかったのですが、XBRLにすると様々な角度から見ることができるようになります。そうなると、この会社の業績はこれくらいだがこの点はちょっと気になるとか、この部分は伸びているなどと検討し、株価を予測するといった使い方もできるかもしれないですね。

xfy technologyをどんな分野のお客さまに広めたいと考えておられますか。

<大野氏> あくまでも応用可能な例としてですが、デジタルテレビの分野が考えられます。デジタルテレビはXMLベースのBMLという言語を使っていますから、今後ウェブの世界と融合していく点があると思います。デジタルテレビを使う方はビデオのコンテンツなどもハードディスクにどんどん入れてしまうようですし、見ることではなく蓄積することを前提にしたサーバ型放送などというものも出てきています。これもある種のコンパウンドドキュメントですから、自分なりのドキュメントを作っておいてその上でクリックすると画面につながるといった使い方ができますし、その日の放送時間と自分のスケジュール管理を連携しておけばその時の生活の履歴なども分かります。さらに、録画した番組を探すのは結構面倒なものですが「確か○○に出かけた時の番組だ」といった情報やSVGで記述された地図と連携して探し出すことも可能になります。

<澤崎氏> また、経済産業省が学校にLinuxデスクトップ機を配布して授業で使用するというプロジェクトを現在進めており、ジャストシステム社の中でも関連した事業を行っています。

その中で学校の先生たちとお話ししていて、パソコンを使っての授業を各生徒のレベルに合わせて進めたいという声をたくさんお聞きしました。国語と理科は大丈夫だが数学がちょっと遅れているという子がいた場合、今の状況ではどうしても画一的になってしまい、皆で同じ画面を開いて同じ時間をかけて勉強して終わりです。それがxfyを使えば、その子の進捗に合わせて進めたりカリキュラムを作ったりといったことができるようになります。これも、xfyの応用が考えられる分野です。

<大野氏> その場合は教科書をコンパウンドドキュメントと考えて、コンテンツである教材を生徒のレベルに応じたエレメントとして入れられるといったイメージですね。

<澤崎氏> これは教務の方ですが、もう1つ校務側からの視点もあって、先生たちは個々の子どもたちの進捗状況をまとめて他の先生に報告したり記録に残さなければなりません。その場合も、先ほどの生徒が見るデータと先生が見るデータは切り口が違うだけで1つの同じデータですから、教務と校務の両方が一度にできるようになります。先生たちの大変なところが、xfyを使うと2つクリアできるわけです。

<大野氏> 他には、最近Palm OSやWindowsCEといったOSを搭載し電話機能もあるスマートフォンが増えてきています。リサーチインモーション社(カナダ)のブラックベリーや、パームワン社(米)のトレオなどは、アメリカやヨーロッパでは結構使われています。メモリー規模は今のところ128MB程度ですが、頑張って512MBぐらいまで拡張すれば、xfyを動かすことができます。そのようにしてスマートフォンや、いずれは携帯電話にも搭載できたらいいですね。

<澤崎氏> このように様々な応用が考えられますが、XMLにできないデータはほとんどありませんし、xfyはプラグインでいろいろと幅が広げられますから使える分野は非常に広いと思います。

今後のXMLの戦略を教えていただけますか。

<澤崎氏> まずいろいろな人に見ていただいて、xfyとはこういうものですということを認知していただくための時期が、半年くらいあると思います。それと並行して分かりやすい製品を作り世の中に出していく、その両方が今年いっぱい続くでしょうね。何か形ができたらどこかに提供して使ってもらったり、その結果を反映して改良したりといったことを1年間、なるべく手広くワールドワイドで行っていきたいです。

<大野氏> XMLはシームレスな世界ですし、先にアメリカを中心に世界で普及させれば日本でも受け入れられると思います。W3Cに加入したのもワールドワイドということを非常に意識しているからです。国内のXMLコンソーシアムなどにも参加していますが、そういったところを通じていろいろな業界のキーパーソンとも連携できるように、またジャストシステム社の名前を広めていきたいですね。

<澤崎氏> 日本からの発信はなかなかないようで、ワシントンに行った時も「日本のソフトメーカーで、このような場で発表したのは初めてだ」 と言われましたから、新しいもの、世界でも納得してもらえるようなものを出していくことで日本に注目していただけるといいですね。

xfy technologyは1つの世界にとどまらない、ボキャブラリーの垣根を越えて使うことのできる夢の大きい技術なんですね。本日は非常に興味深いお話をどうもありがとうございました。

株式会社ジャストシステム
社長室 主任研究員 工学博士
大野 邦夫 氏
1970年東京工業大学大学院修士課程を修了。その後、電電公社、NTTの研究所で通信端末、AIワークステーションの開発などを担当。1995年INSエンジニアリングに転籍しSGML,XML関連の開発と商品化を担当。2000年にドコモ・システムズと社名変更後はモバイルビジネスへのXML適用に従事。
2004年11月に(株)ジャストシステムに入社し現職に至る。


株式会社ジャストシステム
社長室 兼 広報IR室 課長
澤崎 章二 氏
1990年(株)ジャストシステム入社。DTP、グループウェア、ナレッジマネージメントシステムなど法人向け製品の企画営業やテクニカルサポートを担当。1995年より社長室で新技術の調査、新規事業の開拓に加え、ソフトウェアやPC、インターネットなどの業界団体を通じて普及啓蒙活動を担当。現在、XMLコンソーシアム運営委員など複数の業界団体で委員に就任。


1.Web向けに開発された画像データフォーマットの1つ。データ形式はXMLベース、内部データはすべてテキストデータで記述されている。





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