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日本語の重箱の隅(敬語編)

2006年03月01日作成 

中村 園子

漢字の誤変換など、日本語の小ネタ的な情報を耳にする機会が増えました。日本語って難しい!と思う場面もあります。特に、敬語についてはあいまいなままに使ってしまいがちです。しかし、お客様や取引先が関係する場面では避けて通れません。今回は、自分のすることに「お」や「ご」を付けても大丈夫か?というテーマで考えてみましょう。

①後ほどこちらからお電話を差し上げます
②ご連絡が遅れまして、申し訳ございません
③~に関するご提案(文書のタイトル)
④本誌のご送付は、年2回を予定しております

まず、名詞の前に「お/ご」を付けるのは本来、基本的に尊敬の表現です。つまり、相手や、相手側の人・物・状態などに(あるいは話題の第三者に)敬意を払う言い方です。

では、「お/ご」が尊敬表現に限られているかというと、そうでもありません。謙譲、つまり自分や自分の動作についてへりくだって言う表現としても使われます。まず、「お/ご○○」の後に謙譲表現の「いたします/申し上げます」をつなげた「お/ご○○いたします/申し上げます」という形を使えます。たとえば、「ご報告いたします」「お詫び申し上げます」などです。また、単に「お/ご○○する」の形でも謙譲の表現として通用します。さらに変形して、「お詫びを申し上げます」のように「を」を入れて、「お/ご○○」を切り離した形にもできます。といっても、すぐ近くに謙譲の表現が続いているので、感覚はほとんど変わらないはずです。そうすると、例の①「お電話を差し上げます」も、自分側の動作に「お」を付けても「差し上げます」と一緒に使うことで、謙譲の表現として成り立っているわけです。厳密には「お/ご○○」は尊敬、という基本ルールから外れているともいえますが、セットで使う動詞のサポートがあって、謙譲の表現として受け入れられるのです。

例の②、③、④のように「いたします」や「差し上げます」などの付かない形ではどうでしょうか。間違いでは?と感じる人が出てくるのはこのあたりのはずです。謙譲の動詞のサポートがないので、基本は尊敬の「お/ご○○」と区別しにくく、ぶつかってしまうからです。(例外として、立場が下の側から行うのが普通の「案内」などは、「ご案内」だけでもすぐに謙譲の意味が伝わるようです。)でも実際には、このような言い方がよく使われています。お客様に対して提案させていただくのに、ただ「提案」だけではいかにもぶしつけな感じがする、というのが理由でしょう。

そもそも、「お/ご○○いたします/申し上げます」や、同様の謙譲表現にできる動作は、尊敬の「お/ご○○」などが基本的に相手のどんな動作にも使えるのとは違って、相手に対して行う動作で、それが相手に関わる、あるいは影響が及ぶものに限られています。つまり、自分の側だけですることには使えません。たとえば、自分たちの間で調べる場合の確認を「ご確認いたしましたところ・・・」と言うのには疑問がありますが、相手に何かを尋ねる場合の確認は「ご確認をさせてください」と言えます。さらに、自分たちだけで検討する場合には「ご検討します」とは言いにくくても、相手を巻き込んで「最適な方策を一緒にご検討いたします」なら失礼とは思われないでしょう。

「お/ご○○」だけを使う場合もルールは同じですが、謙譲の動詞のサポートがない分、許容範囲は狭くなります。「連絡」の場合は、共有する必要のある情報を伝える、あるいは、お互いに目的があってコンタクトを取るということなので、常に相手が関わっていると考えられます。「提案」も、相手から引き合いがあって提案を出し、受け取った相手はそれを検討して、仕事を依頼したり、さらに要望を出したり、と相手の関わりが想定されます。一方、「送付」は比較的、こちらから一方的に行うものという感じを受けます。「ご送付いたします」なら、謙譲を示す「いたします」が付いているために一応受け入れられても、「ご送付」だけでは、自分の動作に尊敬の「ご」を付けているように取られる可能性があり、少し無理があるということになります。と、結局は「コレ!」と、はっきりしたラインが引けるわけではありませんが、自分の動作でも相手に関わるものなら「お/ご○○いたします/申し上げます」が問題なく使えて、前の「お/ご○○」の部分だけにしても基本的にはOK、でもそのときには相手の関わり度が低い動作については使わないほうがよい、とまとめることができそうです。





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