【リレーコラム:XMLの今と未来】 XMLを単なるブームに終わらせるな
2001年07月19日作成
吉田 稔
米国の景気減速は、当地だけでなく世界経済に影を落としている。周知の通り、発端となったのは昨年のインターネット・バブルの崩壊だった。そのころインターネット企業の株式公開に市場は熱狂していた。将来性だけが先行した結果、新興インターネット企業の株価が実質以上に高騰していたのである。やがて投資家たちが利益の上がらない企業から手を引き始めたことでバブルの崩壊が始まり、今日の景気低迷に至ってしまった。
インターネット・バブルの話を持ち出したのは、それと昨今のXMLブームの間に類似点があるからだ。今日、書店にはXMLコーナーが出現し、雨後のたけのこのようにあちらこちらでXMLセミナーが開催されるようになっている。反面、XMLの話題が盛んに聞かれるほどにはXMLの導入成功事例を聞くことが少ない。XMLのこうした話題先行・技術先行のあり方に早くも警鐘を鳴らす報道さえある。(日経コンピュータ2001/3/12号P52「XMLの常識を覆す」)
誤解を避けるために述べておくが、XMLに託された期待が幻想だと筆者が主張しているわけではない。今は模様眺めの時期だと言っているわけでもない。XMLが次世代データ記述言語の本命であることは間違いない。マルチプラットフォーム環境での分散システムと優れた親和性があることや、マイクロソフト社をはじめ巨大ベンダーたちがW3Cの制定するXML関連規格に支持を表明していることは、XMLテクノロジーが明日の情報化社会を支える基盤技術となる保証になっている。仮に期待の方がいくらか大きいとしても、遠からずしてITにおいてXMLが確たる地位を確保することは確かである。問題は、どうしたらXMLテクノロジーが幻滅・後退期を経験せずにすみやかに受け入れられるかだ。
ここで再びネットバブルに話を戻して考えてみたい。破綻したインターネット企業が多かったとはいえ、ネットビジネスそのものに誤りがあったわけではない。ドットコム企業が淘汰された後、リアル企業が参入することによってネットビジネスはこれから本格期を迎えると言われている。再び繰り返すことになるが、利益を上げるビジネスプランが未確立のまま、将来性だけが一人歩きしたことに問題があったのだ。
三菱総合研究所の高橋 衛氏は、氏担当のコラムで中小企業がEコマースに参入するかを決めるにあたりテレビショップの事例を研究するよう勧めておられる。テレビショップの売れ筋商品と同様、インターネットショップが扱う商品も「消費者が見たり触ったりしないでも買える」ものに収れんされるであろう、とのことである。(http://www.yomiuri.co.jp/bitbybit/index10.htm)ブームに踊らされるのではなく、Eコマースを十分研究して自社の商品でそれに適しているものについてのみ参入すべきなのである。Eコマースという手法も適材適所なのだ。
XMLの導入もそうでありたい。なぜXMLを導入するのか、どの領域でするのかの分析が不十分なままブームに躍らされた導入は避けなければならない。企業戦略やあるべきビジネスモデルをまず考えて、それを実現するための選択肢の一つとしてXMLが挙がるべきだ。ソリューションとしてXMLが最適解かどうかを見極めるためには、正しい知識や理解が不可欠だ。しかも競合他社の後塵を拝したくないのであれば、規格動向や導入事例にアンテナを絶えず張り巡らしておく必要がある。
バブル崩壊の歴史は、17世紀のオランダにおけるチューリップ・バブルにまでさかのぼれるという。歴史の教訓があっても、バブルを生んでしまう人間の心理は変わらない。XMLブームが健全な推移をたどることをぜひ願いたい。弊社執筆陣による「標準XML完全解説」(技術評論社)の改訂版が発売されたが(本稿執筆時で上巻のみ)、上巻13章にXML導入を判断する上での着目点が論じられている。まだご覧になっていない方は一読をお勧めする。
このコラムは株式会社麻布プロデュース発行の「DigitalXpress 2001 Vol3.」に掲載されたものです。