ホーム  > X-plus >  ソリューションコラム

この記事を送る はてなブックマークに追加する
テキストリンクコードを取得する

【リレーコラム:XMLの今と未来】 XMLの過去、現在、そして将来

2002年01月24日作成 

奥井 康弘


 人の行動予測は難しい。いつ、どこで、だれが何をするかなんて予測がつかない。この世界を動かしているテクノロジーも、その予測しがたい人間が作り出すものである。やはり予測しがたい。

 考えてみると、XMLがこんなにブレークするなんて誰が予想しただろうか。今となっては皆さんご存知かどうか分からないが、XMLはSGMLというISO(国際標準化機構)が定めた文書処理分野のマークアップ言語をWebでも利用しようということで規格の見なおしが行われたものである。SGMLは1986年に制定されたが、その後、文書処理の中でも特定の分野以外では利用されることがなかった。その理由のひとつに「タグ付けなんて難しくてできない」というものがあった。そのような状況にあって、SGMLがちょっと姿を変えただけのXMLがこんなに広く利用されることはSGMLに携わった人であれば誰も予想しなかった(できなかった)であろう。

 では、何が変わったのか?それは、人の心である。「ココロ」なんてちょっと大袈裟かもしれない。この心というのは「気持ち」である。心を変えたのは状況である。SGMLが鳴かず飛ばずの不遇の時代を過ごしていたとき、突如としてTim Berners-Lee先生のHTMLが世界を席巻してしまった。しかも、あの皆から敬遠されていた「タグ」を使って!

 なんてことだ!世の中どうなるかわからない!と多くのSGML屋さんは(私も含めて)思ったはずである。これが、まず「予想外」だったことのひとつである。そして、HTMLと同じくらいSGMLもヒットさせたい、と思ったSGML界の人々が集まってXMLを作ったのである。そして、XMLはヒットした。

 でも、さらに「予想外」なことが起こった。それは、XMLの適用分野である。前述のように、XMLは文書処理規格SGMLのWeb版である。したがって、XMLを作ったSGML屋さんたちは、もちろん文書処理で利用するのためにXMLを作った。しかしである。XMLは、文書処理分野とは無縁の、データ処理分野で大きな注目を集めてしまったのである。

 現在のXML利用は、大半がデータ表記にXMLを利用するというものである。これまで、情報表現に標準的な手法がなかったところに、データの意味と階層性を付与できるXMLがマッチしたのである。ここに至ってXMLにプログラミングの概念が入ってきた。「オブジェクト指向」「標準API」などなど文書処理分野で「見出し」「段落」にタグを付けてきた人には未知の世界である。別に文書データがデータ処理の話を理解する必要はないかもしれない。しかし、確実にXMLの利用者層は変わった。XML屋さんになろうとする人たちは、多岐に渡る知識習得が求められるのである。

 現在のXMLの状況を見ると、実に多くの分野、異なるレベルでXMLが使われている。「プロトコル」「電子署名」「文書処理」「マルチメディア」「グラフィックス」「電子商取引」「メタ情報」など関連規格がカバーする領域を挙げれば、それはほぼ情報技術の全領域にまで渡る。つまり、「データのあるところXMLあり」という状況である。

 このような「現在」を見ると、XMLの「将来」はどのようなものになると予想できるだろうか。どの分野でXMLが生き残って、どの分野では衰退するのかは予想し難い。いつ、どこで、だれがXMLに取って代わるような新しい考え方を発明するか分からないからである。でも、XMLの思想は確実に生き残る。つまり、それは「データが自己説明型であること」「階層構造が表現できること」というXMLの特徴である。これが、現在のようなプレーンテキストによるタグである必要は、もしかしたらデータ処理の分野においてはないかもしれない。しかし、考え方は残る。この考え方が「受けた」からXMLがこれほどまでに広がったのだから。 もしかしたら、構造化データというだけで現在のXMLのこと指し、XMLという名称は使われなくなっているかもしれない。

 将来のことは誰にも分からない。しかし、大きな期待を持って、5年後、10年後、XMLがどのような姿を見せているか待ちたい。

 「なんてことだ!世の中どうなるかわからない!」という言葉がそのとき出るかもしれないが、それが良い意味で出てくる言葉であることを祈りたい。XMLが頓挫して見放されることがないようXMLに関係したわれわれが様々な知識を習得しつつ奮闘し、人々の心を掴み続けたいものである。



この記事と関連の高い記事

関連キーワード:SGML


関連キーワード:XML




ページトップへ戻る