ブログとRSSの可能性
2005年08月01日作成
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第二部-RSSとその可能性
ニュースの Web サイトを見ていると、「RSS」というマークを目にすることがある。またポータルサイトで、 RSS リーダーのダウンロードができるという案内があることもある。では、RSS や RSS リーダーとは何だろうか。RSS にはどのような可能性があるのだろうか。
1. RSS とは何か
RSS とは、サイトの更新情報などを XML の形式で配信するデータのことである。この配信データを RSS フィード(RSS Feed)という。RSS を使用することにより、サイト運営者は最新情報を公開できる。また、サイトの閲覧者としては、効率的に情報を収集できるようになる。実際、サイトを直接閲覧するのではなく、RSS だけを収集してサイト更新の有無を確かめ、必要があればサイトを閲覧するという技術者も増えてきている。実際に RSS を使ってデータを配信している二つの例を調べてみよう。
一つはコンピュータ関連の技術書を出版している「技術評論社」のサイト(http://www.gihyou.co.jp/)である。このサイトでは、RSS を使って、サイトで紹介している新刊書籍や新刊雑誌の情報を配信している。RSS データの一部をリスト 1 に示す。RSS はサイトの Web ページの更新情報としてではなく、新着情報の配信のために使われている点が興味深い。
もう一つは、シェアウェアなどのダウンロードサイトである「Vector」のサイトである。その RSS の一覧ページに進むと(http://www.vector.co.jp/rss/)、取得できる RSSフィードが表示される。RSS で提供されるデータの一部は次のとおりである。
■ ベクターソフトニュース:新着ソフトレビュー
■ 週間総合ダウンロードランキング
■ ベクター PC ショップニュース
■ PC ショップランキング:パッケージソフト
Vectorはほかのデ ー タもRSSで提供している。ここで注目できるのは、ニュース提供に加えて、販売製品のランキングが RSS で提供されていることである。ある週の Windows 用のダウンロードソフトのランキングの RSSフィードの一部をリスト 2 に示す。
【リスト 2】
< xml version="1.0" encoding="Shift_JIS" >
<rss version="2.0" xmlns:dc="
http://purl.org/dc/elements/1.1/"
xmlns:sy="
http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/"
xmlns:admin="
http://webns.net/mvcb/"
xmlns:rdf="
http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#">
<channel>
<title>週間総合ダウンロードランキング - Windows</title>
<link>http://www.vector.co.jp/magazine/softnews/050629/n050629rank_week_win.html</link>
<description>Windows全カテゴリーのダウンロード数から集計した週間総合ランキング 05.06.20~05.06.26</description>
<dc:language>ja</dc:language>
<dc:creator>articlemgr@vector.co.jp</dc:creator>
<dc:date>2005-06-27T00:00:00+09:00</dc:date>
<admin:generatorAgent rdf:resource="
http://www.vector.co.jp/magazine/softnews/" />
<sy:updatePeriod>hourly</sy:updatePeriod>
<sy:updateFrequency>1</sy:updateFrequency>
<sy:updateBase>2000-01-01T12:00+00:00</sy:updateBase>
<item>
<title>1位 Lhaca デラックス版 1.20</title> <link>http://www.vector.co.jp/soft/win95/util/se166893.html</link>
<dc:subject>フリーソフト</dc:subject> <description>DLL不要で、...が可能</description>
<dc:date>2005-06-27T00:00:09+09:00</dc:date>
</item>
<item>
<title>2位 Lhaplus 1.51a</title>
...
</item>
...
</channel>
このように RSS は単なるサイトの要約情報や更新情報という「メタデータ」の領域を超えて、サイトが提供したい「配信データの形式」として使われるようになっている。
2. RSS の歴史
注意深い読者は、リスト 1 の RSS と、リスト 2 の RSS では、XML のタグの形式が微妙に違うことに気づかれたかもしれない。リスト 1 は「RSS 1.0」の形式であり、リスト 2 は「RSS 2.0」の形式であるが、この違いは実は本質的な意味を持っている。
リスト 1 とリスト 2 のルート要素に注目してもらいたい。リスト 1 は <rdf:RDF> タグで始まっているのに対し、リスト 2 は <rss> タグで始まっている。とはいえ、両方ともRSS である。この違いの意味を知るには、RSS の歴史をひも解く必要がある。
RSS という名前は、Netscape 社が 1999 年 3 月に「RDF Site Summary」の略称として登場させた。これは Netscape社のポータル MyNetscape に「チャンネル」を登録するための手段だった。この RSS が RSS 0.9 である。
RSS 0.9 は RDF を使って「見出し一覧」を記述した。RDFとは W3C が定義している「メタデータ」を記述するための言語で、Resource Description Framework の略称である。セマンティック Web を実現する基本技術にもなっている。
Microsoft 社はそれ以前にブラウザの Internet Explorer 4.0 で、RSS と同じような技術を、XML 形式の Channel Defnition Format(CDF)として実現していた。しかし CDFは廃れて、RSS は残った。Netscape 社は 1999 年 7 月に、RSS 0.9 の仕様に拡張を施して RSS 0.91 を発表し、著作権や日付情報などを入れられるようにした。その際、RDF に依拠することをやめ、独自の XML 形式に変更した。これに伴い、名称も「Rich Site Summary」になった。RSS という略称には変更がなかった。
こうした動きに対し、RDF ベースにこだわるグループが、拡張性を備えた新しい RSS の規格を発表した。これがRSS-DEV ワーキンググループから 2000 年 12 月にリリースされた RSS 1.0 である。RSS 1.0 の名称は再び「RDF Site Summary」に戻った。
RSS 1.0 は将来的に拡張性を持たせるため、「モジュール」という概念や機構を導入した。RSS コアモジュールに加え、Dublin Core モジュール、Syndication モジュールなどを組み込める。各モジュールのタグは、XML の名前空間によって識別する。
一方、RSS 0.91 の流れを引き継いだのは、UserLand 社だった。UserLand 社は、RSS 0.91 を拡張して、2000 年 12 月にRSS 0.92 を発表した。RDF を使用しない規格である。RSS 0.92 はその後も拡張が続き、2002 年 8 月には RSS 2.0が発表された。RSS 2.0 は RSS 0.9x との互換性を保っている。このとき RSS の名称は再び変更されたのである。RSS 2.0は「Really Simple Syndication」の略称になった。
RSS という略称は同じだが、元の正式名称がこれほど変わるのも珍しいだろう。「RDF Site Summary」という名称は、「サイトの要約情報を RDF 技術で記述する」という意味だった。「Rich Site Summary」は「サイトの要約情報を、RDFにこだわらずに豊富に記述する」という意味になる。そして、「Really Simple Syndication」は「サイトの要約情報に限らず、配信を実に簡単に行う」ということである。技術の進歩と、RSS の使用目的の広がりが微妙に名称の変化に表れていることは興味深い。
このように現在使われている RSS は、表面上は同じデータのように思えるが、バージョン番号によっては、内容も正式名称も異なるのである。ここまでの流れを、図 5 に示す。大きく分けると、RDF ベースの RSS 1.0、または RDF に依拠しない XML 形式の RSS 0.92 または RSS 2.0 のいずれかになる。
図5:RSS の発展
参考までに、こうした RSS の流れに対して、新しいコンテンツ配信技術が開発されている。これが Atom である。RSS の二つの流れ、そして Atom という新しい流れの中で、今後は動向を注視しなければならない。RSS を処理するアプリケーションは、多くの場合、RSSの両方の形式をサポートしているので、利用者としては心配はいらないが、RSS アプリケーション開発者は両方の違いを理解して注意深く設計する必要がある。
3. RSS リーダー
RSS アプリケーションの代表的なものは、RSS リーダーである。RSS リーダーは、RSS フィードの取得・購読を行う。大きく分けると、RSS リーダーには二つのタイプがある。
■ ブラウザ・メーラー型
■ ティッカー型
ブラウザ・メーラー型は、Web ブラウザやメールソフトの画面に似た構成になっている。「gooRSS リーダー」の画面サンプルを図 6 に示す。「gooRSS リーダー」は「gluecose」という RSS リーダーをベースにしており、gooのポータルサイトの RSS を取得する定義がすでに行われている。また、ブラウザ・メーラー型としても、また後述のティッカー型としても使用できるようになっている。RSS リーダーには、「gooRSS リーダー」のように独立したアプリケーションになっているものもあれば、Mozilla の「Firefox」のように既存のブラウザに RSS 機能が組み込まれているものもある。
図6:gooRSS リーダーの画面サンプル
一方、ティッカー型は、デスクトップやタスクバーにある。デスクトップにあってニュースのテロップのように、配信された情報を流したり、タスクバーにあって、新しいRSS を取得したときにポップアップで通知したりする。
これ以外に、購読したい RSS を登録しておいて閲覧できるようにする機能を持つ Web サイト(ホスティング型)や携帯電話で機能する RSS リーダー(携帯型)もある。
まだ RSS リーダーを利用したことのない方は、この機会に RSS リーダーをダウンロードして使ってみることをお勧めする。意外と便利である。多くの RSS リーダーは無料であるが、有料のものもあるので注意したほうがよい。
「gooRSS リーダー」は無料で、「http://reader.goo.ne.jp/」の画面からダウンロードできる。他の RSS リーダーやその機能比較については、「RSS リーダー」という語で検索すればたくさんのサイトを見つけることができる。
4. RSS の可能性
RSS はネットサーフィンの形態を変える可能性がある。従来、インターネット利用者はブラウザを使って Web サイトにアクセスして、人間の目で更新されているかどうかを確認してきた。RSS を使えば、RSS フィードを取得して更新されているかどうかを機械的に確認できるのである。そして、更新のポイントも入手できる。インターネットの利用スタイルに、まず RSS で更新の有無をチェックし、必要なときだけサイトをブラウザで確認するというやり方が加わるのである。
これは、サイトを構築して運営する側が、HTML を使っていかに見せるかという思考に加えて、RSS を使って必要な情報を必要な人にいかに効率的に配信するかという考え方を身につけていかなければならないことを意味する。また、自分のサイトの RSS を購読してもらうために、どのように工夫するかという発想も必要になる。
さらに、RSS リーダーの普及は新たな広告のビジネスモデルも生み出している。それは RSS 広告という分野である。RSS 広告の典型的な仕組みは図 7 のとおりである。サイトA は RSS 広告サイトと契約を結び、RSS フィードの URI をRSS 広告サイトに指定する。RSS 広告サイトはサイト A のRSS フィードのプロキシーになる。サイト A の RSS フィードの購読者が RSS を取得しようとすると、RSS 広告サイトはサイト A から RSS フィードを取り寄せ、その内容に最適と思える広告情報を付加して、購読者に渡す。購読者はRSS の情報とともに、広告の情報も目にするのである。そこで広告がクリックされると、RSS 広告サイトと元のサイト A の運営者に広告料が支払われることになる。これがRSS 広告の一つのモデルである。
図7:RSS広告の仕組み
RSS 広告のメリットは、RSS に含まれるサイトの記事の要約情報を機械的に処理して、関連性の高い広告とマッチングさせることができる点にある。たとえば、「犬」の話題であるなら、「ドッグフード」の広告にしたり、「バイク」の話題であれば、「バイクメーカー」の広告にしたりできる。
さらに、RSS の可能性として期待できるのは「配信」の汎用的なコンテナとしての使い方である。RSS で、サイトの要約情報だけでなく、Web ページの全文を送ることもできるし、そのような動きがある。こうなると、Web ページのサイトにアクセスしなくても、RSS リーダーに巡回を指定しておけば定期的にページを取得できるようになる。
RSS を使って、「音楽」や「画像」の配信も可能である。そうすれば、最新の音楽データを RSS で希望者に配布する仕組みを作ることもできる。まさに、RSS は「サイトの要約情報」という枠を超えて、「配信技術」の基礎となる「コンテナ」または「ラッパー」としての役割を担うようになっている。
もちろん、RSS の中身は XML である。HTML はブラウザというソフトを得て、爆発的に普及した。XML の特性を生かした RSS はどうだろうか。RSS リーダー、または RSS リーダー機能を組み込んだブラウザ、あるいは RSS 機能に対応した新世代の Windows の普及によって、飛躍的に普及するのだろうか。
RSS は「データ配信」という分野と、ウェブにおける「情報過多の解消」という分野で、インターネット利用者の新たな行動スタイルを作り出すものとなるように期待している。
参考資料:
・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/RSS・RSS-サイト情報の要約と公開
http://www.kanzaki.com/docs/sw/rss.html